翻訳者の経費

1. はじめに−等式と原則
2. 経費一覧
3. 経費になる可能性が極めて低いと思われるもの
4. 法令で経費として認められていないが、確定申告の際に控除の対象となるもの
5. 法令で経費として認められていないもの


1. はじめに−等式と原則

まず等式を一つ挙げます。

所得=収入−経費

事業として翻訳をすれば、翻訳料という収入が入ります。しかし収入を得るためにはそれなりの元手がかかっているはずです。そしてその元手が経費となります。例えばPCで原稿を作成したのなら、そのPCやソフトウェアの購入費用は経費です。PCを動かすには電気が必要ですから、そのための電気代も経費です。電子メールで原稿を送受信しているのなら、そのためのソフトウェア代や電話代やプロバイダー料金も経費、作業中に使っている机や椅子の費用も経費です。更に言えば、翻訳力を高めるためのセミナー受講料や、セミナー会場までの往復の交通費も経費になります。

所得税や住民税は所得に基づいて決まるため、経費を申告すればそれだけ税金が安くなります。そして経費を把握することは、「いくら稼ぐのにいくら使っているか」を把握することでもあります。経費を記帳することで、稼ぐためにどれだけのお金が必要か把握できます。そして無駄な経費を削減することで、費用対効果を高めることができます。

では経費とは、そもそもどのようにして決まるのでしょうか。

経費の原則 その1
法令で経費として認められていないもの(後述)以外はすべて、税務署に経費として認められる可能性がある。

そのため経費は、当人の予想以上に広い範囲で認められることが多くなっています。

経費の原則 その2
納税者が経費として自己申告し、税務署が経費として認めれば経費になる。

確定申告の際に経費も申告します。その後、税務調査があれば、そこで認められれば経費になります。税務調査がなければ、帳簿の保存義務は7年間ですので*、それが過ぎれば自動的に経費として認められたことになります。

*帳簿の保存義務に関しては、「【経理】翻訳者の青色申告(準備編)」「3. 青色申告に必要なこと」をご参照ください。

翻訳料は源泉徴収されることが多いため、あらかじめ収めていた税金が多すぎた場合、還付金として戻ってくることになります。経費を多く申告できれば、それだけ納税額は少なくなります。

経費の原則 その3
事業に必要な出費は経費である。

どのような事業をしているかによって、出費が経費になるかは異なります。以下、翻訳業における経費を考えてみたいと思います。

*納税者は以下の設定とします。

*経費になる可能性については、幅広くとらえることとします。経費になる可能性が怪しい、一部しか経費にならないと思われるものに関しては、後ろに(?)をつけました。家事分との按分が必要だと思われるものには、後ろに(按)とつけています。経費になるかどうかは業務内容にもよりますので、あくまで一例とお考えください。

*青色申告決算書の損益計算書に印刷されている勘定科目は以下の通りです。

その他に、以下のものを設けました。

上記の新科目は一例に過ぎず、こうしなければならないというものではありません。実状に応じて適宜検討すればよいかと思います(新聞図書費と研究開発費をまとめて研究図書費とするなど)。

また、経費をどの勘定科目に対応させるかは一概には言えません。以下のものはあくまで目安とお考えください。微妙だと思われるものには(仮)をつけました。


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2. 経費一覧

*私の場合、大きく分けて、

飲食を伴わないもの  研究開発費
飲食を伴うもの  会議費
として区別しています。

*接待交際費は原則として、取引先を饗応するための経費です。翻訳業の場合、接待交際費を払うことはそれほどないかと思われます。

*車両にかかる経費全般を、車両費という勘定科目でまとめることもできます。

*外注工賃に対して源泉徴収を行うかどうかですが、翻訳業関連の作業の場合、源泉徴収の義務はないとのことです。また、給与を支払っている対象(専従者および従業員)が合計2人までの場合、源泉徴収の義務はありません。3人以上に給与を支払っている事業主は、外注工賃に対して源泉徴収を行う義務があります。

*青色申告で専従者給与に関する届手をしている場合のみ。詳細は、「【経理】翻訳者の青色申告(準備編)」「2. 青色申告の利点」をご参照ください。

*開業費は開業時の出費(敷金、内装費、宣伝費など)が多い場合、年度ごとに分割して経費にするためのものです。翻訳業の場合、店舗などと異なり開業費がそれほどかかりませんので、敢えて開業費とする必要もないかと思われます。

*自宅の一部を事業で使用している場合、事業分を減価償却費として経費にできます。光熱費や通信費、住宅ローンの利子も、事業分を経費にできます(住宅ローンの利子は、利子割引料という勘定科目になります)。

ただ住宅ローン減税で100%自宅として申請していると、経費の申告ができません。経費にするには何%自宅で何%事務所かを区別する必要がありますが、そうすると住宅ローン減税分が少なくなります。どうするのが最良かは、各人の状況によります。

*支払総額が20万円未満、またはおおむね3年以内の周期で行われる場合は修繕費。その他の場合、修繕費か資本的支出かの区別が困難であるため、専門家に相談することをお勧めします。

翻訳業は個人事業税の対象にはなりません。確定申告書の第二表(内訳などを書く方)の右下に「住民税・事業税に関する事項」がありますが、事業税に関する事項を書く必要はありません。

事業税を請求された場合、専門家に相談することをお勧めします。事業税の対象となる業種と兼業の場合でも、翻訳料に事業税はかかりません。


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3. 経費になる可能性が極めて低いと思われるもの

*1 仕事に関連した式典に出席するための洋服代や美容院代の場合、経費として認められる可能性があります。

*2 個人事業主の場合、法人と違って接待交際費の上限がありません。しかしあまりに多額な接待交際費を経費として申告すると、経費として認められない可能性があります。


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4. 法令で経費として認められていないが、確定申告の際に控除の対象となるもの

e-Taxを利用すると領収書や証明書の提出を省略できますが、ものによっては原則として法定申告期限から5年間、書類の提示または提出を求められる場合があります。詳細はe-Tax「所得税及び復興特別所得税についてよくある質問」をご参照ください。

これらの費用が控除される年は支払日によって決まります。例えば国民年金保険料を年度分(4月から翌年3月)一括して納入している場合、納入した全額を納入年度の控除額に入れられます。4月から12月分と1月から3月分に分けて確定申告する必要はありません。

*1 医療費控除の詳細については、「国税庁タックスアンサー(よくある税の質問)」「医療費を支払ったとき(医療費控除)」をご参照ください。セルフメディケーション税制という新しい制度も紹介されています。

*2 所得が少ない人には、国民年金保険料の免除・納付猶予制度があります。詳しくは日本年金機構のサイトこちらをご参照ください。


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5. 法令で経費として認められていないもの


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