翻訳者の青色申告(仕訳編)

1. 仕訳の基本(その1)−右手で投げて、左手で受ける
2. 仕訳の基本(その2)−事業主借と事業主貸
3. 仕訳の基本(その3)−按分
4. 仕訳の基本(その4)−発生主義
5. 仕訳一覧(上記以外)
6. 消費税の会計


*記帳は弥生株式会社の会計ソフトウェア「やよいの青色申告」で行うことを前提とします。

*それぞれのカッコの用例は以下の通りです。

[] 仕訳時に入力する語句や数字
「」 タイトル名、ソフトウェア名および機能の名称
() 補足説明
“” その他の強調

*口座は普通預金のみを使用します。当座預金や小切手は使用しません。

*消費税は税込とします。

*記帳は原則として仕訳日記帳を使用します。振替伝票を使用する場合、決算仕訳の場合を除いて、(伝票を使用)と書くことにします。

*仕訳日記帳の行の並び順は、以下の通りとします。日付は省略します。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要

*この仕訳は唯一のものではなく、あくまでも一例です。しかし青色申告会の指導に基づいており、青色申告を乗り切れるものにしたつもりです。

*とはいえ、記帳に関する最終判断は各自でお願いします。

「やよいの青色申告」スマート取引取込では預貯金口座の明細を取り込んだり、レシートをスキャナやスマートフォンで自動仕分したりすることができます。詳細は弥生株式会社のスマート取引取込 活用ガイドをご参照ください。

「やよいの青色申告」は、損失申告に対応しています。所得が赤字の場合、損失申告用の確定申告書を共に提出します。

1. 仕訳の基本(その1)−右手で投げて、左手で受ける

大半の取引では、手元のお金が増える(現金を受け取る、預金残高が増える)か、減るか(現金を支払う、預金残高が減る)かします。例えば、

場合、手元のお金が5250円減ります。その際、右手で投げる、つまり右側の貸方勘定に[現金]、貸方金額に[5250]と入力します。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
現金 5250

そしてもう一方の借方勘定に現金が減った理由、この場合は[消耗品費]と入力します。借方金額には[5250]と、貸方金額と同じ額を入力します*。

「やよいの青色申告」では、一方に金額を入力すると、もう一方にも同じ額が自動的に入力されます。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
消耗品費 5250 現金 5250 文房具 やまと文具

これで仕訳は完了です。金額は消費税も含め、実際に支払った額になります。摘要欄には取引の内容を記述します。摘要は原則として、取引内容が後で見てわかるよう書いておけば大丈夫です。ここでは購入品目と購入店名としました。

次に手元のお金が増えた場合を考えます。

場合、手元のお金は20万円増えます。その際、左手で受ける、つまり左側の借方勘定に[普通預金]、借方金額に[200000]と入力します。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
普通預金 200000

そしてもう一方の貸方勘定に、普通預金が増えた理由、この場合は[売上高]と入力します。貸方金額には[200000]と、借方金額と同じ額を入力します。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
普通預金 200000 売上高 200000 翻訳料 ABCカンパニー

*[売上高]という勘定科目については、「7. 仕訳の基本(その4)−発生主義」でも触れます。

このようにして、現金や預貯金口座の動きを基準に考えるとわかりやすいと思います。お金を借りると手元のお金は増え、お金を貸すと手元のお金は減ります。ですから私は

貸方−右手(右側)−お金が減る
借方−左手(左側)−お金が増える
と覚えています。


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2. 仕訳の基本(その2)−事業主借と事業主貸

翻訳料が振り込まれた口座から現金を引き出し、業務に必要な物(書籍や備品など)を購入したり、生活費(食費、衣料費など)に当てたりするというのが、よくある状況だと思います。

実生活では現金や口座を事業用と生活用で分ける必要はありませんが、帳簿上では両者に明確に線を引く必要があります。例えば、

場合、仕訳は以下のようになります。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
事業主貸 100000 普通預金 100000 生活費

事業とは関わりのないところにお金が出ていった場合、借方勘定は[事業主貸]となります。

逆に、事業とは関わりのないところからお金を持ってきて使用した場合、例えば、

なら仕訳は、

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
消耗品費 5250 事業主借 5250 文房具 やまと文具

のように、貸方勘定を[事業主借]とします。

開業したばかりで事業収入がない場合などは、必然的に[事業主借]で処理することになります。

*ここで言う“事業とは関わりのない”とは、あくまで事業を基準に見たものです。自分の給与や貯金であったり、他人から借りたり貰ったりしたお金でも、事業とは関わりのないところからのものなら[事業主借]です。

場合なら、

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
現金 50000 普通預金 50000

となります。

帳簿上で[現金]や[普通預金]と書いた場合、事業用のもののみを表します(以下、帳簿上の[現金]には[]をつけて区別します)。この[現金]には以下の決まりがあります。

マイナスになってはならない
実際に手元になければならない

ですから例えば以下の場合、

だと、仕訳日記帳に、

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
事業主貸 5000 現金 5000 生活費

と書いておく必要があります。そして事業用の[現金]がゼロになる前に、事業用口座から下ろして補充します。

私は青色申告会で財布を分けて管理するように指導され、中が二つに分かれている財布を使用しています。そして残高試算表と財布の[現金]を対照して、記帳が正しいか確認しています。預貯金口座を事業用と生活用に分けるのも同じ理屈で、要は“実生活を帳簿に合わせている”のです。


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3. 仕訳の基本(その3)−按分

自宅で仕事をしている場合、電気代や電話代は、事業用と生活用が一括して引き落とされることになります。この場合、事業用だけを分けて経費にする必要があります。これを按分と言います。

(伝票を使用)
借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
水道光熱費 4000 普通預金 10000 電気 40%
事業主貸 6000

生活分は[事業主貸]で処理します*。按分率は、仕事状況に応じて任意で決めてよいことになっています。また、小数点以下の端数の切り捨て、切り上げも任意です。

*電気代などの延滞金も経費にできないため、[事業主貸]で処理します。

なら、

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
水道光熱費 4000 事業主借 4000 電気 40%

となります。全体額を書く必要はありません。

*“事業用ではない口座”には自分名義のものの他、家族など他人名義の口座も含まれます。親や配偶者などの口座から料金が引き落とされている場合でも、事業に使用している分は経費になります。

ただ公共料金のように毎月引き落とされるものの場合、期末にまとめて按分する方が簡単です。以下のようになります。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
水道光熱費 10000 普通預金 10000 電気
借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
事業主貸 72000 水道光熱費 72000 電気生活分 40%

「やよいの青色申告」には家事按分機能があり、処理が簡単になっています。「帳簿・伝票」-「家事按分振替」(クイックナビゲータなら「決算・申告」の「家事按分」)から実行できます。


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4. 仕訳の基本(その4)−発生主義

「4. 仕訳の基本(その1)−右手で投げて、左手で受ける」で、

の仕訳を

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
普通預金 200000 売上高 200000 翻訳料 ABCカンパニー

と書きました。しかし青色申告では取引が発生した時点、すなわち納品時と入金時とに分けて記帳することになっています。この方法を発生主義と言います。対照的に、現金の出入りがあった時だけ記帳する方法を、現金主義と言います。

発生主義だと記帳は以下のようになります。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
売掛金 200000 売上高 200000 翻訳料 ABCカンパニー

*日付は

◎自分で請求書を出す場合:請求書の日付
◎翻訳会社から明細が送られてくる場合:その明細書の日付
などとします。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
普通預金 200000 売掛金 200000 翻訳料 ABCカンパニー

このように2度に分けての記帳となります。

発生主義と現金主義では、納品と入金が年をまたいだ場合の収入が違ってきます。例えば2004年12月に納品し、その報酬が2005年2月に振り込まれた場合、発生主義なら2004年の、現金主義なら2005年の売上になります。税務署は発生主義を奨励しています。

確定申告の時期は、毎年2月16日から3月15日(土日祝日などの場合はその翌日)となっています。そのため、前年12月分の売掛金は、その時までに支払われている可能性が高いと思われます。

期末になると帳簿の繰越処理を行いますが、その後で金額が確定した売掛金は、繰越処理済みの前年度分に追加記帳をします。

「やよいの青色申告」では「ファイル」(クイックナビゲータなら「事業所データ」)「繰越処理」で繰越処理が行えます。繰越処理を終えた帳簿への追加記帳を行うには、「年度切り替え」(クイックナビゲータなら「年度切替」)を選択します。追加記帳後、次年度の帳簿に変更を反映するには、「次年度更新」を選択します。

*発生主義の原則に従うと、公共料金の請求書が届いた時にも記帳する必要があります。しかし青色申告会に尋ねたところ、引き落とし時のみの記帳で問題ないとのことでした。記帳の手間も考え、ここでは引き落とし時のみの記帳とします。

実際には振込の際に源泉徴収され、更に振込手数料が引かれることがあるかと思います。その際は入金時の記帳を以下のようにします。

(伝票を使用)
借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
普通預金 179790 売掛金 200000 翻訳料 ABCカンパニー
事業主貸 20000
支払手数料 210

振込手数料は経費として、源泉徴収分は[事業主貸]として処理します。理屈を言えば

◎源泉徴収分は所得税の前払であり、
◎所得税は経費とならず、
◎経費にならないお金の減少は“事業とは関わりがない”ので
[事業主貸]となります。

ただ源泉徴収分は確定申告とも関わってくるため、私は新たに[源泉徴収税]という勘定科目を[事業主貸]の補助科目として作成し、通常の[事業主貸]と分けて仕訳しています。ですから、

(伝票を使用)

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
普通預金 179790 売掛金 200000 翻訳料 ABCカンパニー
源泉徴収税 20000
支払手数料 210

のようになっています。

勘定科目や補助科目の作成は、「やよいの青色申告」では「設定」(クイックナビゲータなら「取引」または「集計」)「科目設定」で行えます。


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5. 仕訳一覧(上記以外)

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
普通預金 50000 事業主借 50000 事業用口座開設

*事業用口座の開設は、必ず記帳する必要があります。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
新聞図書費 1050 事業主借 1050 書籍 やまと書店

*図書カードや商品券など、現金と換算できるものは現金扱いとなります。貰い物なので“事業とは関わりのない”ことから[事業主借]となります。各店舗のポイントやクーポンは現金扱いにならず、記帳もしません。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
消耗品費 2250 現金 2250 備品 ヨドバシカメラ
借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
新聞図書費 10500 未払金 10500 書籍 Amazon

*日付は領収書や明細書から適宜判断します。

*ローンや分割払いの記帳も同様。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
未払金 10500 普通預金 10500 書籍 Amazon

*ローンや分割払いの記帳も同様。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
新聞図書費 10500 事業主借 10500 書籍 Amazon

*届いた時点での記帳は不要。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
工具器具備品 157500 現金 157500 パソコン ヨドバシカメラ

*購入の際の延長保証料金なども[工具器具備品]に含まれます。

*[工具器具備品]は、仕訳日記帳と別に、固定資産台帳にも登録する必要があります。

*中古の[工具器具備品]を購入した場合、耐用年数を計算する必要があります。詳細は専門家にお尋ねください。

*10万円以上のパソコンは減価償却資産となります。一括して経費にはできません。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
減価償却費 30000 工具器具備品 30000 減価償却

*この仕訳は直説法によるものです。[減価償却累計額]という科目を使用する間接法もあります。

「やよいの青色申告」の場合、「拡張機能」-「固定資産管理」-「固定資産一覧」(クイックナビゲータなら「決算・申告」の「固定資産管理」)に情報を登録しておけば、自動的に減価償却費を計算してくれます。ただ、どのような情報を入力すればよいかは自分で判断する必要があります。

*耐用年数や償却率は財務省令で定められています。定額法か定率法かの選択など、詳細は専門家にお尋ねください。個人事業主が定率法を選択する場合、「所得税の減価償却資産の償却方法の届出手続」を事前に税務署へ提出する必要があります。

*2007年度の税制改正により、減価償却費の計算方法が大きく変わりました。これにより、未償却残高が1円になるまで減価償却できるようになりました。
2007年3月31日以前に使用を開始した減価償却資産には、従来の計算方法が適用されます。
2007年4月1日以後に使用を開始した減価償却資産には、新しい計算方法が適用されます。

*事業用と生活用の両方で使用している場合は按分します。「やよいの青色申告」の場合、「拡張機能」-「固定資産管理」-「固定資産一覧」(クイックナビゲータなら「決算・申告」の「固定資産管理」)から資産を選択し、「事業専用割合」で設定できます。

*これから記帳を始める場合、建物や家具、パソコンなど、過去に購入して現在事業で使用している資産を減価償却できる可能性があります。

*自宅は[建物]という勘定科目になり、減価償却の対象となります。土地は[土地]という勘定科目になり、減価償却資産には該当しません。詳細は専門家にお尋ねください。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
固定資産除却損 10000 工具器具備品 10000 固定資産除却損

*固定資産を除却した場合、未償却分を必要経費にできますので、しっかり記帳して経費を増やしましょう。この際、借方の勘定科目は[固定資産除却損]となります。「やよいの青色申告」にこの科目はありませんので、「設定」(クイックナビゲータなら「取引」または「集計」)「科目設定」で作成します。固定資産台帳でも「固定資産の編集」画面で、「事業供用終了日」「減少年月日」「減少事由」を記載します。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
現金 150000 工具器具備品 100000 売却益
固定資産売却益 50000

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
現金 40000 工具器具備品 100000 売却損
固定資産売却損 60000

*固定資産を売却した場合、帳簿価格との関連で記帳が異なります。減価償却が月単位で行われるため、帳簿価格は売却日によって異なります。帳簿価格の算出については、専門家に相談するのが無難でしょう。「やよいの青色申告」に[固定資産売却益][固定資産売却損]という科目はありませんので、「設定」(クイックナビゲータなら「取引」または「集計」)「科目設定」で作成します。固定資産台帳でも「固定資産の編集」画面で、「事業供用終了日」「減少年月日」「減少事由」を記載します。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
普通預金 1 事業主借 1 利子

*利子所得は事業所得ではなく、“事業とは関わりのない”収入であることから、[事業主借]での処理となります。利子は振り込まれた段階で、既に税金が引かれています。

*還付金など“事業とは関わりのない”収入は、[事業主借]での処理となります。本来記帳する必要がないため、事業用ではない口座に入金することをお勧めします。還付金の場合、確定申告書の「還付される税金の受取場所」で受け取る口座を指定できます。

*国民健康保険料や国民年金保険料など“事業とは関わりのない”支出は、[事業主貸]での処理となります。本来記帳する必要がないため、事業用ではない口座から出金することをお勧めします。「【経理】翻訳者の経費」「4. 法令で経費として認められていないが、確定申告の際に控除の対象となるもの」「5. 法令で経費として認められていないもの」もこれに該当します。

*状況に応じて処理が異なるため、専門家にお尋ねください。


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6. 消費税の会計

*消費税での申請や申告については、「【経理】翻訳者の消費税への対応」「2. 消費税での手続き」をご参照ください。

消費税の課税事業者は、消費税も記帳することになります。方法は税抜か税込を届出せず任意で選べますが、上記の仕分との整合性を考えここでは税込を選択します。

課税方式は本則課税と簡易課税がありますが、ここでは簡便性を考慮し簡易課税を選択します。

簡易課税をするには税務署への申告が必要です。詳細は「【経理】翻訳者の消費税への対応」「2. 消費税での手続き」をご参照ください。

「やよいの青色申告」では「設定」-「消費税設定」-「消費税設定」(クイックナビゲータなら「事業所データ」の「消費税設定」)「課税方式」を「簡易課税」、「経理方式」を「税込」、「簡易課税事業区分」を「第五種事業」に設定します(「税端数処理」は納税者が任意で選択できます)。

「決算・申告」-「消費税申告書設定」-「消費税事業所設定」-「申告書設定」(クイックナビゲータなら「決算・申告」の「消費税申告設定」-「申告書設定」)では「申告基礎情報」-「事業者区分」で「課税」、「課税方式」で「簡易」を選択します。

「やよいの青色申告」で消費税申告書とその付表を作成するには、記帳したデータを取り込んで日付などを入力します。申告や納税の方法については、「【経理】翻訳者の消費税への対応」「2. 消費税での手続き」をご参照ください。

消費税は経費になるので、引き落とす預貯金口座は事業用のものにするといいでしょう。納税した日付で、次のように記帳します。

借方勘定 借方金額 貸方勘定 貸方金額 摘要
租税公課 100000 普通預金 100000 消費税

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